介護施設・高齢者向け住宅の基礎知識
「入居して良かった」と思える
老人ホームの選び方
「どう探せばよい?」「種類が多すぎてわからない」と、いざ老人ホームを探そうと思っても、どの施設が入居者本人にとってよいのか迷ってしまいますよね。老人ホーム探しは、予算や地域はもちろんのこと、介護・医療の必要性、入居者本人や家族がどのような暮らしを希望するかで選び方が変わります。大切なのは、入居後に「思っていた内容と違う」という、入居者と老人ホームのミスマッチが起こらないようにすること。そのためには入居者にとって何が必要か、大切にしていることは何かを見極め、送りたい暮らしができる老人ホームを選ぶことが重要です。
身体の状態や生活スタイルは人それぞれ異なるからこそ、合うホームが見つかれば、入居者本人にとって「暮らしやすい新しい我が家」となります。ここでは入居後に後悔しないために大切な選び方のポイントを解説します。
目次
受けたい介護、予算、過ごしたい生活
老人ホームや高齢者向け住宅は「介護が必要な人」と「自立して生活できる人」で入居できる施設が大きく異なります。「介護付き有料老人ホーム」「特別養護老人ホーム(特養)」「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」のように、いくつかの種別もあります。さらに種別が同じ施設や住まいでも、設備や受けられるサービス、雰囲気はそれぞれで大きく異なります。それが施設選びをさらに難しくします。
【主な介護施設・高齢者向け住宅の種別】
介護が必要な方
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介護付き
有料老人ホーム 民間施設 施設内のスタッフから介護を受けられる有料老人ホーム。要介護度により介護費用の上限が決まる。日中の看護師の配置が義務付けられている。 -
住宅型
有料老人ホーム 民間施設 生活支援サービスなどが付いた有料老人ホーム。介護が必要な場合は、外部の訪問介護・看護サービスを利用する。施設に介護事業所が併設されていることもある。 -
サービス付き
高齢者向け住宅 民間施設 バリアフリー構造で、安否確認など見守りサービスがついた高齢者向けの賃貸住宅。入居一時金が不要な分、初期費用は抑えられるが、敷金や礼金が必要。介護が必要な場合は、外部の訪問介護・看護サービスを利用する。 -
サービス付き高齢者
向け住宅(特定施設) 民間施設 サービス付き高齢者向け住宅のうち、「特定施設入居者生活介護」の指定を受けているもの。介護付き有料老人ホームと同等の介護サービスを提供。 -
認知症高齢者
グループホーム 民間施設 認知症のある方が、家で暮らすように少人数で共同生活を送るホーム。専門のスタッフによる認知症ケアが受けられる。施設と同じ市区町村に住民票がある方が対象となる。 -
特別養護
老人ホーム 公的施設 要介護3以上の方が入居できる老人ホーム。介護保険施設なので費用は世帯収入により決まる。 -
介護老人
保健施設 公的施設 要介護1以上の方が、在宅での生活を目指して介護やリハビリを受けるホーム。最長3か月などの入居期間の制限がある。
自立して生活したい方
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住宅型
有料老人ホーム 民間施設 生活支援サービスなどが付いた有料老人ホーム。介護が必要な場合は、外部の訪問介護・看護サービスを利用する -
サービス付き
高齢者向け住宅 民間施設 バリアフリー構造で、安否確認など見守りサービスがついた高齢者向けの賃貸住宅。入居一時金が不要な分、初期費用が抑えられるが、敷金や礼金が必要。介護が必要な場合は、外部の訪問介護・看護サービスを利用する。 -
シニア向け
分譲マンション 民間施設 バリアフリー構造や生活を楽しむための設備が整った分譲マンション。元気な人から要支援までの入居者が多く、富裕層向けのものが主流。介護事業所などを併設した物件もある。
「介護を受けて生活したい方」が入居する場所として「介護付き有料老人ホーム」を思い浮かべる方が多いでしょう。介護付き有料老人ホームでは介護・看護職員を入居者3人に対して1人配置するという人員の基準があります。しかしこれは最低基準なので、「2.5人に対して1人」「1.5人に対して1人」など専門スタッフがより充実している施設もあります。看護師が24時間常駐している施設もあれば、理学療法士や言語聴覚士がいる施設もあり、医療機関との連携内容も施設により異なります。
「自立して生活したい方」の入居先は「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」が増えています。万が一の時の見守りサービスやバリアフリーの設備があり、必要に応じて外部の介護サービスを利用できます。サ高住は提供するサービスを運営会社がある程度自由に決められ、食事やイベントの充実度、交通の利便性など幅広い選択肢があります。
また、「住宅型有料老人ホーム」の中にも、自立して生活したい方が多く入居している施設もあります。
サ高住の中でも「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた施設は、介護付き有料老人ホームと同様に施設内にいるスタッフの介護サービスが受けられます。
施設の種別や地域、予算だけで老人ホームを選ぶと、「思っていたことと違った」が多く発生するのはこのためです。
本人の性格、好きなこと、将来の希望、家族の希望を理解した上で、できるだけ本人に合う、希望を満たす老人ホームを選ぶことが必要です。
首都圏には多くの老人ホームや高齢者向け住宅があります。「ハルメク 介護と住まいの相談室」のような、多くの老人ホームを見学し、入居の相談に乗ってきた相談員へ相談する人が増えています。
ここから「介護が必要な人」、「自立して生活したい人」にとって、満足度の高い老人ホームを選ぶためのポイントをお伝えします。
ホームでの暮らしをイメージする
老人ホームではどんな暮らしをしたいですか? 日中は自室で過ごしたい、あるいはレクリエーションに参加したい。食事をたまには自分で作りたい、食事の時間は遅めがいい、週に1回は外出したい…。希望は人により異なります。また、その希望に対応できるかどうかは、施設により異なります。そのため、老人ホームでの暮らしを具体的にイメージして、「本人にとって必要なものは何か」を考えておくことが必要です。
施設により、毎日のお昼の時間を居室で過ごすところや、リビングなど共有部に入居者のほとんどが集まって過ごすところがあります。一人でのんびり過ごしたい方には居室の方が居心地が良いでしょうし、賑やかな環境が好きな方にはリビングに集まる施設の方が良いでしょう。入浴の頻度や、ほぼ寝たきりになっても入浴できる「機械浴」があるか、またレクリエーションや外出イベントはあるか、家族が泊まる際のゲストルームはあるか、なども違いになります。
自宅で介護をしていた時と異なり、家族は施設での暮らしをイメージしにくいので、具体的な要望をホームに伝えながら確認しましょう
“24時間看護”は本当に必要?
「手厚い介護」「24時間看護師常駐」をうたう老人ホームを見ると、「いろいろと面倒をみてもらえて緊急時にも対応してもらえそうだから何となく安心ね」と感じる方が多いと思います。確かに安心感はありますが、それがすべての入居者にとって良いことかというと、そうではありません。
介護スタッフが充実していて生活のことを何もかもやってもらえる施設は、まだ「自分でできる」ことも全て介護スタッフがやってしまうことがあります。要介護度が低いうちにそのような施設に入居したところ、身の回りのことを自分でする機会がなくなり、身体能力が落ちてしまった、認知症が進んでしまったというケースがあります。サービスは必ずしも手厚いところが良いわけではないのです。
「24時間看護師常駐」が必要な人も限られています。痰吸引・胃ろう・鼻腔栄養・中心静脈栄養、インシュリン注射などの医療的処置が不要なら、24時間看護は必ずしも必要ではなく、幅広い施設から選ぶことができます。
医療ケアが必要なら、その症状に対応してくれること。将来、症状が進行した時も同じ施設にいられること。24時間の看護師常駐よりも、提携している医療機関が特定の疾患に強いところであることや、これまで通っていた主治医に通い続けられることが強くプラスになることがあります。
見学でスタッフの質を確かめる
「長く生活する新しい場所」「大切な家族を預ける場所」を見つける老人ホーム探し。介護スタッフなど職員とのかかわりが深くなるため、「スタッフの質」が重要になります。介護スタッフが信用できるか、入居者本人や家族が相談しやすい体制が整っているか、何かあったときにきちんと家族に連絡を行ってくれるかなどを、入居前に必ず施設を見学して確認しましょう。
老人ホームの見学での多くは、営業担当者が丁寧に案内してくれます。しかし、好印象で入居したところ、現場の職員が挨拶をしない、短時間で機械的なケアしかしてくれない、施設長に相談しても改善されない、というケースもあります。
できるだけ心地よい生活を送るため、施設見学の時は現場の職員を観察したり、話したりしてみることが大切です。施設長やケアマネジャーと話をして人柄を見極めつつ、運営体制や勤続年数などを聞いてみましょう。経験値のある介護スタッフがいる、スタッフの研修制度が充実していて、より良い体制を整えていこうとする姿勢のある施設だと安心ですね。
施設ごとに異なる看取りの内容を確認する
老人ホームを「終の住処」と考え、病院ではなく住み慣れた我が家で最期を迎えたいと、看取りができるホームを希望される方や家族は多くいます。看取りへの対応方針は施設により異なるため、入居前に必ず確認が必要です。
「看取り」とはどのようなものでしょうか。
看取りは終末期の入居者が、延命治療など積極的な医療行為を受けず、施設で家族やスタッフに見守られながら旅立つことです。看取り期間に入ると、医師や看護師が定期的に往診し、家族が寝泊まりするなどして一緒の時間を過ごし、最期を迎えます。また、入居者本人だけでなく、家族への精神面や逝去後のサポートなどの支援も行われます。
ただし、看取りを行う施設であっても、必ずしも施設内で最期を迎えるわけではありません。病気や怪我の状況により、回復が見込まれるが施設で対応できない時には、病院に搬送され、病院で亡くなる方もいます。
提携する医療機関の対応次第で施設で対応できることが異なるため、その内容を確認し、入居者や家族の間でどのような最期を迎えたいのか話し合うことが大切です。
見守りがあれば十分?求める生活をイメージ
元気なうちに老人ホームや高齢者向け住宅を探すときは「目的を明確にする」ことが大切です。自立の方向けには、サ高住や住宅型有料老人ホームが代表的で、元気な状態を維持し、生活を楽しむためのイベントやレクリエーション、ジムなどの設備が充実しています。間取りも一人暮らし向けから夫婦で入居できるものもあります。
「子の近くに住み替えるため、見守りサービスだけで十分」であえれば、立地を重視して過度なサービスのないサ高住を選ぶ。「温泉に入りたい」「麻雀をやりたい」「農業をやりたい」「地域貢献したい」など特定の希望があれば、その希望をかなえる施設や住宅を探しましょう。
介護・医療が必要になったときの対応を確認
元気なうちはアクティブな生活を楽しめる施設に入居したとします。では将来、介護が必要になったらどうしますか?「もし介護が必要になったとき、どうしたいのか」少し先の未来をイメージしてみてください。
高齢者向け住宅の中には、手厚い介護が必要になったときには対応しきれなかったり、費用負担が重くなったりするところがあります。提携する介護事業所の訪問介護・看護では足りず、自費負担での介護が発生する場合などです。
そこで「住み替え」が選択肢となります。
元気なうちは見守りサービスの安心感のなかでレクリエーションや外出などを楽しんで生活し、介護が必要になったら訪問介護・看護を利用する。手厚い介護が必要になってきたら介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホームなどに住み替えるというものです。
「終の棲家」にこだわりすぎないことで、その時その時の身体の状態に合うホームで暮らすことができます。
介護が必要な方向けのフロアと自立する方向けのフロアが同じマンション内にある住宅もあります。そこでは、介護が必要となっても、住み慣れた建物に住み続けることができます。
生活のイメージを確認しましょう
老人ホームを探すときには、入居者の身体の状態や希望する生活スタイルを知り、希望にあった施設を選びましょう。
施設での暮らしや家族とのかかわりを具体的にイメージしながら、希望条件に優先順位をつけておけば、老人ホームを探しやすく、入居後のミスマッチのリスクも軽減できます。
老人ホームを探すときのチェックポイントの例をリストにしました。たくさんあるチェックポイントの中で、優先順位の高いもの、低いもの、希望しないものなどがあると思います。
インターネットで自分で検索できるWebサイトでは、希望を全て満たす施設は見つからないかもしれません。もし、「こういう希望を叶える施設はないか?」「どうやって探せばいいのかわからない」などのお悩みがありましたら、「ハルメク 介護と住まいの相談室」へご相談ください。入居者の身体状態や性格、ご希望などをうかがい、候補となる施設を提案いたします。家族間で意見が分かれた時や、施設に聞きづらいことを確認したい時にも対応できます。ぜひ一度、ご相談ください。
希望するのはどんな暮らし?
< 居室 >
- キッチンや浴室が自室にほしい
- 夫婦で入居したい
- ペットも一緒に入居したい
- 広い間取りが良い
- LDKがほしい
- 庭がほしい
- 窓から緑が見える場所がいい
- 自宅の家具を持ち込みたい
- 日当たりがよい部屋がいい
< 介護・医療 >
- 手厚い介護を希望したい
- 今後、発生が見込まれる医療対応を希望したい
- 看取りを重視したい
- 訪問診療が必要(専門診療科目や頻度)
- 訪問医療の医師を自分で指定したい
- 24時間看護が必要
- 褥瘡の対策をしているか
- 機械浴が必要
- リハビリを重視したい
< 生活 >
- 他の入居者とのコミュニケーションをとりたい
- レクリエーションやイベントが充実したところがいい
- 自由に外出したい
- 施設内に温泉やジム、カラオケなどの施設が欲しい
- ゴミ出しなど身の回りのことをスタッフに気軽に頼みたい
- 家族や友人と自由に面会したい
- 昼の過ごし方共用部にでるのか、居室なのか
- 介護が必要になってからも住み続けたい
< 食事 >
- メニューを選びたい
- 自分で作りたい
- 時間を指定したい
- 部屋食がいい
- 介護食対応が可能
< 立地・環境 >
- 住み慣れた地域で暮らしたい
- 親族の居住地と近い場所がよい
- 海が見えるなどロケーションを重視したい
- 暖かいエリアがよい
- 最寄り駅からのアクセスが便利なところがよい
- 商店街など町の賑わいの近くがいい
- 閑静な場所がいい